知人を訪ねて新湊内川(富山県射水市)に遊びに来たことがキッカケとなり、このまちの風景に魅了されたアメリカ人のスティーブン・ナイト氏が移住しました。元かまぼこ屋を営んでいた店舗兼住居の空き家になった町家を購入し、かねてからの夢だったバーを開業することを決意。
表通りに面した母屋をオフィス兼住宅として、内川側の元土蔵や番屋だった建物部分をリノベーションして、アメリカンウイスキーが楽しめる本格的なBERをつくりました。オープンは2018年12月。おそらく都会に行ってもこれほどの種類のウイスキーやオリジナルカクテルが用意されている店は少ないはずです。
photo:1F/中央に配置した大きなステンレステーブル
住居部分となる表通りの母屋から中庭を経由、そして内川までの細長い建物を通り抜けるまでに実に2m近くの高低差があります。この「高低差」はこのまちの特徴とも言えます。そこでリノベーションプランは、この特徴を上手に活かそうと、あえて段差や中二階をそのまま利用した空間プランニングをしました。
カウンター、中央テーブル、ライブラリ、中二階、二階奥。それぞれの空間に特徴があり、それぞれの楽しみ方ができます。そして、築100年は超えているであろう古い建物を支える柱や梁はそのまま、あえてキレイに補修もせずにデザインとして活かしてあります。
photo:中二階/吹抜け大空間のエリア
ちなみに照明器具やインテリア家具のコーディネートも私たちが得意とするところ。モダンな古民家の空間デザインのインテリア選びが成功するためには、ある程度の方程式があります。フォルムや質感、細部へのこだわりが感じられる商品でなければ、古民家の力強い空間に負けて(浮いて)しまいます。どうしてもピッタリの商品がない場合は職人さんに造ってもらうこともあります。
photo:2F奥/ビンテージソファーのある隠れ家的な空間
昭和のアルミサッシは窓枠が細くて素敵です。今では珍しい模様の入った型ガラスも空間の雰囲気づくりに一役買ってくれています。新しく造作した木製の窓にもこの型ガラスを再利用しています。ヴィンテージのソファとランプ、それにアルミ製のテーブルはそれぞれが時代も素材もデザイン性も異なりますが、コーディネートのポイントを抑えると調和させることができます。
photo:1Fライブラリ/和の七色をモチーフとした色彩プラン
日本芸能が好きなオーナーのリクエストにより、和の色を空間の色彩プランに取り入れました。ベンガラ色の土間や、江戸紫色の階段は日本中探しても、ここだけにしかないかもしれません。この色使いが許されるのは、古い建物のリノベーションだからこそです。
その他、内川の水面に怪しく?映りこむネオンサインもオーナーのこだわりです。外壁は漁師町らしいとも言える、錆びたトタンへのオマージュです。一見しますと錆びた鉄板のように見えますが、実は特殊塗装による仕上げです。職人さんのこだわりの成果と言えますが、本物よりも本物らしいと思います。